2011年10月31日月曜日

殺戮にいたる病




「異常者」と「健常者」
という言葉を使う時
言葉として使われる時はその定義として
双方を分かつ明確なラインがあるような印象を受けますが
実はそこには
ラインなんてものはなくグラデーションがあるだけなのだというのは分かってます。
自分の中にもそうした悪意や衝動
そういったなにかしらの「獣」のようなものが潜んでいるからです。
樋口が犯人を追う理由としてそこが少しだけ描かれていましたが
読者も同じではないかと感じました。
そういった嗜好だったり衝動が心のどこかにあるゆえ
グロテスクであったり残酷な描写のある作品を手にとったりするのではないかと思います。

3人の登場人物の視点でそれぞれ時系列を少しずつずらして進んでいくのが印象的でした。


しかし上記のような部分はこの作品の持つ一番の魅力とは全く関係ありません。
そこはここには書きたくありません。
傑作でした。
読み終わった瞬間にまた最初のページから読み直したくなる
というのは私にはあまり経験がありませんでした。
この作品を手に取る際は限りなくこの作品について知らない状態であることをオススメします。

原発

原子力、原発のことを少し調べるため

『原発被曝列島~50万人を超える原発被曝労働者~』 樋口健二
『ヒロシマ、ナガサキ、フクシマ~原子力を受け入れた日本~』 田口ランディ
『原子力と報道』 中村政雄

という本を図書館で借りて読みました。



『原発被曝列島』
元々3月11日以前に書かれた本でその新装改訂版
震災以前から問題が多かった原発労働者のルポです。
ブラック企業の文化と共通するものがあると感じました。

『ヒロシマ、ナガサキ、フクシマ』
タイトルからも分かる通り震災以降に書かれたもの
日本が原子力政策を進めていくに至った経緯などが分かりやすく書かれていて
とても勉強になりました。
また原発推進派、反対派の議論が成立しなくなってしまうイデオロギー的対立を筆者は危惧していて
その部分は非常に共感できました。

『原子力と報道』
震災以前に書かれた本
今までの原子力に関する報道について書かれた本です。
筆者は比較的原子力を支持している立場で
ところどころにある
「メディアは必要以上に危険性を煽るな」
という主張に今となってはやや違和感を覚えました。
しかし、メディアが原子力を正しく理解せずに報道していた事実は確かにあるな
とは感じました。
何かを正しく理解するというのは非常に難しいことだと感じました。

日本における原子力、原発に関する本はもう少し読んでいく予定です。

2011年10月21日金曜日

俗物図鑑

筒井康隆の『俗物図鑑』という小説を読みました。



とても下品でしたがとてもおもしろい作品でした。
なんだか読みながらすっとしてしまいました。
俗物図鑑というタイトルで
「俗物」であるというキャラクターがたくさんでてきましたが
彼らはちっとも俗物ではありませんでした。

きっと何者にもなれない俗物の私はそう思いました。

すっかり筒井作品のファンになってしまいました。

2011年10月9日日曜日

笑い男

J.D.サリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』
という小説を読みました。



この『ナイン・ストーリーズ』は
9つの短編からなる小説で
その中のひとつに『笑い男』
というお話があります。

『攻殻機動隊S.A.C』のファンとしては
読まないわけにはいかないだろう
と思い手にとった次第です。






残念ながら
『攻殻機動隊S.A.C』の中での笑い男と
この『笑い男』に共通点は見つけられませんでした。


『攻殻機動隊S.A.C』には
サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』
の引用やモチーフが多く散見されます。

I thought what I'd do was, I'd pretend I was one of those deaf-mutes
(僕は耳と目を閉じ口をつぐんだ人間になろうと考えた)

You know what I'd like to be? I mean if I had my goddam choice, I'd just be the catcher in the rye and all.
(僕が何になりたいか知ってるよね? 僕の馬鹿げた選択は、ただライ麦畑で[子供達を]捕まえる人になりたい、それだけなんだ)

などの引用。

『秘密の金魚』の話

そして笑い男=アオイの被っていた赤いハンチング

などなど。


そういうこともあって
そして『笑い男』のなかにも何か発見があるかなあ
S.A.Cの笑い男=アオイの性格や行動と共通点があるかなあ
などと思っていたのですがそれは考え過ぎでした。

引用したのは
あくまで『笑い男』
というタイトルのみなのでしょうか。

ただ『攻殻機動隊S.A.C』の第10話『密林航路にうってつけの日』は
『ナイン・ストーリーズ』冒頭のお話『バナナフィッシュにうってつけの日』
をもじったものだと思います。
たぶん。

なんにせよ小説自体は不思議な感じがして楽しめました。
またしばらく経ったらライ麦とともに読みなおしてみようと思います。